最近特に話題となっているFIREについての本を読んだ感想。
著者はFIREムーブメントの第一人者の女性、クリスティー・シェン氏。
中国の農村部の貧しい家庭に生まれ、おもちゃを買うお金がないので、幼い頃は医療廃棄物の山の中を漁り、使えそうなものを見つけておもちゃを自作していたという壮絶な体験をしていたにも関わらず、両親に連れられてカナダに移住したということもあるが、31歳という若さで早期リタイアを達成したという方。始まりからかなり引き込まれる内容である。
幼い頃の壮絶な貧困体験から、彼女は1セントでも大切にし、節約を徹底して貧困から脱出することを誓った。
まず彼女がしたことは大学へ進学する上で、情熱よりもコストパフォーマンスを意識した。
彼女が情熱を傾けるものはライティングだったが、コスパを重視してコンピュータ・エンジニアリングへと進んだ。
ここで彼女はなんとなくではなく、きちんと数値的に計算して選択していることに感銘する。
具体的には①各専攻によってかかる総費用と②その専攻を卒業して就業した場合の給与の中央値と高校卒業すぐにバイトで稼げる最低賃金の差額を算出し、②÷①で③POT(Pay-Over-Tuition)スコアというものを算出し比較したのだ。
例えば①ライティング専攻時にかかる総費用13,520ドルに対し、②卒業後の給与の中央値17,000ドルと最低賃金の差額14,248ドルの差額2,752ドルを割ると③POT 0.20となる。
これをコンピュータエンジニアリングに当てはめると、①専攻時にかかる総費用14,448ドルに対し、②卒業後の給与の中央値55,000ドルと最低賃金の差額14,248ドルの差額40,752ドルを割ると③POT 2.81となる。
彼女の調査によると、情熱に従うことは決して間違いではないが、統計的に見ると情熱に従った先には失業や不完全就業が待っている場合が多い。また、情熱の向け先は年月と共に変わりうる。よってまずは経済的に安定してから情熱を追うのがベストと判断した。
次に労働から得られる収入のみではリタイアは難しいため、投資に取り組んでいく。彼女は不動産投資は手数料等の観点から好まないらしく、株式を中心としたペーパーアセットでの投資に注力している模様。
ポートフォリオをデザインする上で、現代ポートフォリオ理論や効率的フロンティアを参考とし、以下の手順でデザインした。
1.株式のアロケーションを選ぶ
若いうちは株式の割合を多くする。年齢と同じ割合の債権割合が目安。
2.指数を選ぶ
ホームカントリーバイアスに注意し、自国株式を多くしすぎないように。米国人でなくても米国をメインとすべき。
3.投資ファンドを選ぶ
最も手数料の安いETFを選ぶ
4.リバランシング
感情に左右されず、機械的に行う。尚、資産が全てインデックスである場合に有効に機能する。個別銘柄は組み入れない。
また、4%ルールを基準として総資産達成の目標額を設定する。
4%ルールとは・・・ポートフォリオの4%の資金で1年間の生活費を賄えれば、貯蓄が30年以上持続する可能性が95%以上である。というトリニティ大学の論文を基としている。
例えば年間400万円の生活費が必要な人は、1億円の資産があれば年間4%で運用して毎年400万円の運用益で資産を減らさずに永久的に生活できるということ。
ここでの懸念は、リタイア直後に下落相場がきたら資産を売らざるを得ないのか?そうすると計画が崩れるのではないか?ということだが、これに対しても解決策を提示している。
解決策1、現金クッション・・・金利の高い預金口座に現金を貯めておく。生活費5年分あればOK。
年間支出-年間利回りx年数、で算出する。
解決策2、利回りシールド・・・ETFの分配金は下落相場でも変わらないのでこれを生活費とする。
利回りシールドの柱は、優先株、REIT、社債、高配当株の4つとしている。
上記によって、現金クッションの必要額は、(40000ドル-35000ドル)x5=25000ドルとなる。
仮に下落相場が長引いた場合のバックアッププランとして、下記手順としている。
1.利回りシールドの活用
2.現金クッションの利用
3,地理的アービトラージを使い、生活費を抑える
4,サイドハッスルを始める
5,一時的にパートタイムの仕事に復帰する
個人的には地理的アービトラージの考え方は非常に魅力的と感じるが、ここでの疑問は子供ができた場合はどうするか?ということだが、答えはワールドスクーリングというものがあるので非常に興味深い。
更に彼女は早期リタイアにおける最大の壁は以下の恐怖心であるが、それぞれ解決策を付け加えている。
1.お金が底をつく
利回りシールド、現金クッション等の戦略で問題無し
2.コミュニティの喪失
友人・知人からの批判や怒りに直面するが、それはあなたの行為によって自分の正確に疑問の目を向けさせるからである。怒りの対象はあなたではなく、彼ら自身である。そのような友人とは残念ながら離れることとなるかもしれないが、リタイアによって世界中の新たな真の友人と出会うことができる。
3.アイデンティティの喪失
経済的安定を得た上で新たなことにチャレンジでき、これまでのアイデンティティを捨て、より理想的なアイデンティティを確立できる。
また、自由になるのに以下の方法を取れば100万ドルは不要である。
・サイドFIRE
副業で稼ぐ分、ポートフォリオの金額を減らすことができる。
・パーシャルFIRE
パートタイムやコントラクターになれば上記と同じく。
・地理的アービトラージ
強い通貨の国(米国など)で収入を稼ぎつつ、弱い通貨の国(メキシコ、ベトナム、マレーシア、タイ、ポーランド等)でリタイア後の生活を送る。
最後に、成功者には様々なパターンがあるが、パーソナルファイナンスの3つ(収入、支出、投資)のうち、2つは平均的でも必ず1つは突出している。
中でもオプティマイザー(支出を徹底的に抑えることで資産を築くタイプ)が最も再現性があるとのこと。
本を通して感じた印象としては、著者は(本にも書いてあるが)どちらかと言えば悲観的なシナリオを基にあらゆる事態を想定し、非常に用意周到なプランを計画しており、且つ数値的に根拠がしっかりしており、再現性も感じられ極めて説得力がある。
現代資本主義社会に生きる全ての人が読むべき優れた著書である。
本の内容を参考にした上で個人的に落とし込むと、私としては現時点でペーパーアセットはほぼ株式100%としているが、彼女の提案ほどではないにしろ、1〜2割程度は債権の割合を組み込んでいきたいと思う。
また、彼女は不動産投資には否定的だったが、国によって事情も違うので私は不動産投資は拡大していきたいと考えている。
人口減少の影響は懸念材料ではあるが、世界的に見ても非常に低金利で融資が受けられ、利回りも他のアセットよりも高く、各経費によって利益の調整も可能であることから日本で不動産投資を行うメリットはあると考えている。
転職は現時点では考えていないが、本業での安定収入を得つつ副業を小規模からでも始め、入金力を強化して投資拡大していくことで、FIREを目指していくことは十分に可能だと考える。